2019年7月15日月曜日

岡本陸郎美術館ニュースレター   2019年初夏の号

美術館では毎年夏に映画を4本上映しています。
映画も芸術の分野の一つで、本当に良い作品は実に少ないものです。高校生の頃から毎週1本は観続けて、これまでの数千本のうちから、これは本当に価値があり、面白さに満ちて、時代を越えたAクラスの作品であるというほんの数十本をこれまでに上映してきました。上映作品は美術館ホームページのイベントのページで見ることができます。

小津安二郎はやや神格化されすぎて、誤解されている映画監督のように思います。小津の作品に若い頃から晩年に至る作品に共通しているものは、粋な軽妙さ、というものですが、時々この軽妙さを失ってマジメ一方で固くなった作品もあります。そういう失敗作である「東京物語」が世評ばかりは高く小津の代表作と言われています。本人も残念がっていることでしょう。
これまで美術館では、小津作品の傑作ばかり、「生まれてはみたけれど」1932作、「東京の合唱」1931作、「長屋紳士録」1947作、「小早川家の秋」1961作、「秋刀魚の味」1962作、を上映してきました。今年は「浮草」1959作、を9月7日に上映します。
これらの作品には共通して、人間の生活を冷静に見つめたリアリズムと、その一方で軽妙な粋な笑いが満ちています。成熟した大人の笑いの映画というものが小津の生涯をかけて追求したものであったのですが、大芸術家小津にも失敗作は数少なくありません。それらのAクラスに満たない作品は美術館では上映はしないつもりです。
芸術は、大変難しいもので、失敗作も避けられないものですが、奇跡的に全てがうまく回転した時にのみ傑作が生まれます。映画においては原作、脚本、俳優役者、また音楽のすべてが一致して回転した時に奇跡的に稀な傑作が生まれます。小津においては脚本に野田高梧、俳優役者に中村鴈治郎、音楽に斎藤高順という稀なメンバーがたまたま揃ったことによって「浮草」という傑作が生まれています。こういう傑作を数本も作れた小津は日本で最高の幸せな芸術家であったと言えます。
音楽の斎藤高順は小津の作品のうちでも「浮草」1959年、「秋刀魚の味」1962年に軽妙なポルカを導入して、小津の粋な軽妙さを際立たせています。これらの曲はユーチューブで聞くことができます。この音楽を聴くと各作品の場面が目の前に浮かんで、小津の笑いに満ちた軽妙な粋の境地を味わえます。

これらの斎藤高順のポルカは1997年作のアメリカ映画の「As good as it gets」の音楽にも強い影響を与えています。実はまたその斎藤高順も、フェリーニの「道」1954年作の映画音楽のNino Rota から影響を受けているようにもみえます。
これらの音楽のユーチューブを下に並べてみます。聞いてみてください。どれもそれぞれ素晴らしい傑作です。
La Strada / 道」作曲Nino Rota 1954作:https://www.youtube.com/watch?v=CKLa8j06lkw
As good as it gets/ 恋愛小説家」1997作:https://www.youtube.com/watch?v=hd7VdR45deg&list=PL889DB28CEBD6054A&index=7

このニュースレターは美術館ブログhttps://rikurookamoto.blogspot.comにも載せています。
映画の芸術としての傑作とはいかなるものかを、夏の夜に鑑賞してくださいますよう。


0 件のコメント:

コメントを投稿